最終更新日 2026年9月9日 by anielm
生産技術の谷口です。
大阪の産業機械メーカーで15年、自動車部品と電子部品の接着・シール工程を立ち上げてきました。
いまは独立して、中小の製造業さんで塗布工程の相談を受けています。
「少量多品種のラインに塗布装置を入れたい」という相談が、ここ数年で増えました。
そのとき最初に出てくるのが「どのくらいの精度の機械を買えばいいですか」という質問です。
先に結論を書きます。
精度から入ると、たいてい外します。
日本ロボット工業会の統計では、2025年の産業用ロボットは総出荷額が前年比20.4%増だった一方、国内出荷台数は37,816台と3年連続で減っています。
伸びているのは輸出のほうです。
国内の現場は、台数を並べる自動化とは別のところで悩んでいる。
私の感覚とも合います。
吐出量のレンジは、一番小さい品種で決まる
日本接着剤工業会の統計では、2025年の接着剤出荷量は合板向けが178,584トンなのに対し、電機向けは38,871トン、組立産業向けは13,255トンです。
量で見ればごく一部です。
私たちが戦っているのは量ではなく、1ショットあたりの精度と品種の数のほうだと言えます。
最初に見るのは吐出量のレンジです。
品種が変われば塗る量も変わります。
0.05mlの点付けと20mlのポッティングを1台に受け持たせれば、どこかで無理が出ます。
| 機種の例 | 吐出量範囲 | 適応比率範囲 |
|---|---|---|
| HPP1-T | 0.007〜0.716 ml/shot | 100:100〜100:10 |
| MD | 0.01〜2.8 ml | 100:100〜100:3.5 |
| カッパー5 | 0.03〜2.0 ml/shot | 100:100〜100:5 |
| ツインフローVR-100 | 85〜1,000 ml/shot | 100:100〜200:1 |
1台がカバーするのは1桁から2桁の幅です。
下限と上限の両方を1機種に求めれば、どちらかが必ず犠牲になります。
私がやるのは、品種を塗布量の順に並べて線を引く作業です。
全品種の8割が入る帯を先に決め、そこから外れる品種は手作業で残すか別の機種に振ります。
最初から全品種を1台に載せようとした案件は、たいてい立ち上げで揉めました。
方式ごとの守備範囲は、メーカーの2液型ディスペンサーの塗布方式と吐出量レンジを機種ごとに並べた一覧で横並びに確認できます。
段取り替えの時間は、カタログに載っていない
次が段取り替えです。
少量多品種のラインでは、装置が動く時間より切り替えの時間が効いてきます。
見ておきたいのは次の4点です。
- 材料を替えるときの洗浄。洗浄タンクが標準で付くのか、溶剤をどれだけ使うのか
- ミキサーの扱い。スタティックミキサーは多くが使い捨て、ダイナミックミキサーは分解洗浄になる
- 混合比の変更方法。比率固定式はポンプの組み替えが要るが、比率可変式なら操作パネルで済む
- 塗布条件の再現。前回と同じ条件を装置から呼び出せるのか、紙の記録に頼るのか
段取り替えの時間は、どのメーカーのカタログにも書いてありません。
自分で測るしかない部分です。
私は候補の機種を見に行くとき、必ず材料の切り替えを1回やってもらい、時間を測ります。
30分と90分では月の生産計画が変わるからです。
材料をひとつ増やすと、装置の外側の要求も動く
3つ目は装置の外側の話です。
品種が増えれば、使う材料も増えます。
そのときに抜けやすいのが法令側の要求です。
有機溶剤中毒予防規則の第1条では、「接着のためにする有機溶剤等の塗布の業務」が有機溶剤業務として挙げられています。
有機溶剤を重量の5パーセントを超えて含む混合物が対象です。
第5条により、第一種または第二種にあたる材料を屋内作業場で扱うなら、発散源を密閉する設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置のいずれかを設けなければなりません。
材料をひとつ増やしただけで、排気設備の工事が必要になることがあります。
装置本体の見積もりだけ見ていると、この分が抜け落ちます。
新しい材料を候補に入れる段階でSDSの成分表示を確認しておく。
それだけで、稟議のあとに予算が跳ねる事故は減らせます。
まとめ
少量多品種のラインで塗布装置を選ぶとき、私が見ているのは次の3つです。
- 全品種のうち何割が1台の吐出量レンジに収まるか
- 材料の切り替えに何分かかるか
- 材料を増やしたときに、装置以外で何が必要になるか
カタログの精度欄は、この3つを確かめたあとで見ても間に合います。
装置は入れて終わりではなく、毎日切り替えながら使うものだからです。
自社の材料と品種のリストを持って、実機のあるメーカーで一度流させてもらう。
遠回りに見えて、それが早道です。



